GiftedHero_02_挑戦者のキンギョ

昔から

人並み以上に

できちゃって、


僕は

いつだって

ヒーローだった。


でも

そんな僕にだって

上手に出来ないことは

あるのだ。


例えば、

魔法をかけること。



僕にとっての

魔法は、


幼い頃に読んだ

絵本の中にある、


ステッキの先から

生まれる

キラキラの星くずと、

ピンクの雲。


しゅるしゅると

ひとたび

煙に巻かれたら、


一瞬のうちに

おしゃれな服に

着替えていたり、


かぼちゃの馬車が

出てきたり。


魔法にかかった人たちは、

決まって

笑顔に

なっていたんだ。




魔法は

絵本の中にしかない


という、

僕にとって

残酷な現実を


本当の意味で

理解したのは、


中学生に

なってから

だったと思う。


それまでは、

キラキラの存在を

頭のどこかで

信じていて、


「僕にだって

   いつか

   使えるんじゃないか」


と心の隅っこで

思っていた。


人知れず、

将来使ってみたい魔法を

こっそり

書き溜めたりしていた。


考え、

描く事が

修行となり、


経験値が

蓄積している

気がした。


そんな中、

周りの子が

塾に行き始め、


高校受験を

意識しだした時期、


友達と

図書室で

将来のことについて

話した。


その友は

とても具体的に

未来を描いていて、


僕の

魔法修行のことなんて

とても言えなかった。


魔法使い

なんて職業は

ない。


当たり前の

ことなんだけど、


僕にとっては

堪え難い現実で、


密かに

ずっと

もがき苦しんでいた。



本当のところ、

僕はまだ

魔法の存在を

諦め切れて

いなかったのだけれど、


高校生になって

いよいよ具体的に

進路を考える段になり、


将来について

ひとまずの結論を出す

必要性に迫られた。


魔法への憧れと

まだぼやけた

大人の世界を

交互に見て、


何日も

何日も

悩んで

葛藤した。


魔法使い

なんて職業は

ない。


どうにか認識した

その現実と、

正面から

対峙していた。



ある時、

こんな

発想の転換が

生じた。


魔法使い

という職業はない

けれど、


別の職業につきながら

仕事の中で

魔法を使う事は

できるんじゃないか。


魔法を広義で捉え、

「魔法」

という名称を伏せて

かけてしまえば、


きっと

笑顔は

生まれるんじゃないか

って。


僕は

狭義の、

ピンクの雲と

キラキラの星くずに

さよならを告げ、


代わりに、

笑顔を生み出すもの

全てを

魔法だと

定義した。


深みから

僕を引きずり上げてくれた

この考えは、


今もずっと

変わっていない。


心の根底に

この信条を

しっかりと

携えて、


僕は

大人の世界の扉を

開けた。



しかしながら

大人の世界は

そんなに

甘くなくって、


幾度となく

心は削られ、


精神力の

枯渇を

感じた。


ただ、

魔法の対象である

民衆は


都合良く

表面だけを

見てくれるから、


幸いにも、

涙が溶けゆく

舞台裏が


彼らの目に

触れることは

なかった。


嵐のような

日々の中、


僕の魔法は

まだまだなんだ

って、


たくさん

泣いた。


魔法は

笑顔を

咲かせるためのもの

なのに、


僕は

なんでもできるヒーロー

なのに、


と子供じみた

自問自答を

繰り返す中で、


ひとつ

どうしても

腑に落ちないことが

あった。


なんで

人を

笑顔にするために、


僕は

泣いているんだろう。


笑うことと

泣くことは、

正反対のことの

はずなのに。


その頃から

僕は、


心とは離れた

頭の中で、


涙の存在に

興味を

持つように

なった。



季節が過ぎ、

たくさんの仮説を

検証した後、


「涙の発散が

 魔力の蓄積に

 関係していること」


「自分に魔法を

 かけることは

 出来ないこと」


以上

ふたつの結論を

導きだした。


僕は

相変わらず、

本気で、

魔法の存在を

信じていた。


涙が

魔力なのだとしたら、


僕は

枯渇を恐れず

魔法をかけ続けると

決めた。



+++


「だから

 僕は

 ここに

 来ました。


 僕は

 魔法で

 世界を変える。


 ここは、

 そのための

 足がかりです。」


王立劇場「月・長調」で

行われた、


劇団

「Dream performers」の

劇団員オーディション。


挑戦者のキンギョの

まっすぐな眼差しは、


彼らのセカイの

裏側に横たわる

闇を知っている

審査員の三人には、


とてもじゃないけれど、

まぶしすぎるものでした。


団長のネコは

書類に目を落とし、


劇団幹部のインコは

静かに目を閉じました。


静寂の中、

ひとり、


矢面のクラゲだけが、

挑戦者のキンギョの

視線から

逃げずにいました。


審査が終わったあと、

矢面のクラゲは

団長のネコに

言いました。


「あの子、

 僕が育てたいな。」


+++



GiftedHero / IROKACOLORIS

イロカクロリ -creator iroka's portfolio