GiftedHero_05_支配人びいきのイルカ

僕は、

他の人よりも

ほんの少しだけ、


注目されやすい

人間なのだと思う。



今思えば

自分でそういう風に

仕向けていた部分も

少しはあるのだけれど、


大方、

自然に生きる上で、

群衆の注目を集めていた。


僕にとっての

普通が、


他の人には

普通じゃないと

気付いたのは


物心ついて

少し経ってからのこと。


それまでは

褒められる理由も分からず

戸惑っていたけれど、


今は

多少なりとも

余裕を持って、

その言葉を

受け止められるようになった。



しかし、

未だ

慣れないのは、


「他人の中に在る僕(虚像)」


と、


「僕の真実(実像)」


との

ギャップに

気付いた群衆が、


好き勝手に

騒ぎ立てる声だ。


あれは

何度経験しても

凹んでしまうし、


対処の方法が

掴めない。


僕は

彼らが思う程

完璧な人間じゃない


と、

自分では

分かっているけれど、


それを

群衆が

認めてくれない。


完璧だと

勝手に思い込み

祭り上げた中で、


真実が

ちらりと

見えた時、


「完璧だと

 思っていたのに、

 こんな欠点が

 在るぞ!」


と声を荒げ

立場を変える群衆たち。


僕からすれば


「最初から

 そう言ってるじゃないか……」


と思うのだけれど、


熱狂し

何が何だか

分からなくなっている

初期の他人には、


そんな僕の声は

届いていないのだろう。


彼らは

彼らが信じる虚像の僕に、

盲目的に

夢中なのだ。


僕からすれば、


彼らも

実像の僕も

同じ人間なのだけれど、


どうにも

彼らにとっての虚像の僕は

特別な次元にいるヒーローらしい。


それは

いくら説明しても

耳に届かないどころか、


他でもない僕が、

僕自身の真実を

述べているに関わらず、


「またまた

 そんなこと言って、

 そんなはず無いよ」


という

矛盾した返答が

群衆より浴びせられる。


本当におかしい話だけれど、


そう言われてしまえば

弱気な僕はいよいよ

失敗することが怖くなって、


被害を

最小限に抑えられるように

振る舞うしか

無くなってしまう。


僕も、

彼らも

傷つかない方法は

ただひとつ。


彼らの期待に、

真正面から

応えることだ。


ところで、

僕と

そんな群衆たちの間には、

もうひとり

介在する場合がある。


それは

登用者。


現状で言うところの、

劇場支配人だ。


彼は

僕に、


「大丈夫、

 私が

 後ろにいますからね」


とひとつ言って、


ど素人の僕を

ステージへ

放り出した。


なんて無責任な人だろう

と思って、


だけれど

権威には

逆らえずに、


とにかく

必死に

役者らしく

振る舞った。


群衆の期待値は、

他の先輩たちに向けられる

それに比べても

あり得ない程に

振り切っていたから、


僕の演技を見て

当然

クエスチョンマークが

たくさん浮かんでいた。


それもそのはずだ。


経験も

何も無い僕が、


歴代の主演者どころか、

脇役や

黒子にだって


勝てるところなんて

ひとつも無いのだ。


誰にだって

分かる

このことが、


当時

理解できていたのは

僕一人だった


という

恐ろしい状況の中、


僕は

その後、


群衆の

冷淡な視線と、


楽屋での

妬みの中に

身を置くこととなった。


ああ、

もう、


だめだ。


なぜなら

僕には

勇気が無い。


支配人に

「できません」とも

言えないし、


群衆に

「ほら、

 できるでしょう」とも、


他の役者たちに

「できるように

 教えて下さい」とも

 言えない。


色々

考えを巡らせた結果、


僕が呪うべきは

何も出来ない僕の心

なのだと

気付いてしまった以上、


先にも

後ろにも、

左右の道にも

進めない。


こうして僕は

劇場の背戸口に

座り込んだまま、


ひんやりと

冷たい夜風を、

涙の跡に

受けていた。


ずっと、

ずっと……


きっと

このまま

死ぬんだろうな、


と、


本当に

思っていた。


+++


「怖いんでしょう?」


その時でした。


背中を預ける

背戸口の向こうから、


落ち着いた

問いかけが

ありました。




心の洪水を

せき止めるのに

必死だった

支配人びいきのイルカには、


その声を

特定できるまでの

冷静さは

無かったものですから、


彼は

返事さえも

絞り出せずにいました。


「誰も開けないように、

 見張っててあげる。


 だから、


 背中を預けて、

 ゆっくり泣きなね。」


その瞬間、


殺していた喉から

言葉にならない嗚咽が

漏れました。


心とは離れた頭が、


大丈夫、

生きるよ


って、


背戸口の向こうに

伝えているようです。


誰とも

分からない言葉が、


驚く程に

すっと

心に浸みるのは、


氷塊が

涙となって

流れゆき、


心のバラが

あらわに

なっていたからでしょう。


それはとても

危険なこと

だけれど、


一方で


直接

真実に触れる

チャンスでもあります。


最年長のユニコーンも、

背戸口の向こう側で

腰を下ろしました。


その後

言葉は

無かったのだけれど、


ふたりのバラは

着実に、

互いのつるを

結ぶのでした。



GiftedHero / IROKACOLORIS

イロカクロリ -creator iroka's portfolio