GiftedHero_06_片鍵のコトリ
知ってる?
誰もが
心に根付かせている、
バラの秘密。
そのつぼみの色は、
最初は
透明で、
触れると
冬の空気みたいに
ひんやりとしている。
僕らが
生きるということは
つまり、
心のバラを
育てること
だけれど、
ともすれば
その育成法も
自分次第
ということ。
厳しい言い方をすれば、
その咲きっぷりこそが
君の
これまでの人生の、
評価
ということだ。
美しく
咲いているかい?
思ったより、
小振りだったかな?
今にも
枯れそう、
なんてことは
ないだろうか?
君、
今、
とても悲しい気持ちに
なっただろう。
分かるよ、
僕もそうだった。
自分が思い描く程、
自分のバラは
美しくないし、
どうにも貧相で、
か細い感じがする。
でも、
それで良い。
どうか
目をそらさないで。
君のバラは、
君自身だ。
枯れそうなら、
水をあげよう。
貧相なら、
今こそ
肥料を与える時。
か細いなら、
支柱を立ててあげれば良い。
何も
「一人で咲け!」
なんて、
突き放すことはない。
向き合って、
手伝ってあげれば良いんだよ。
君が、
君自身のことを。
いつしか
自分を
厳しく律してしまうのが
癖になり、
やがて
習慣となった
君。
どれだけの間、
君は、
君自身を
傷つけてきたんだろう。
心のバラを囲う
氷塊は、
周りの攻撃に
対抗するための
防御壁だ。
周りって、
誰だろうね。
それは
きっと、
一番近くから
責めている、
君のことでもある。
氷塊は、
温度で
溶けるよ。
包み込んであげよう。
実像を
他人に触れられるのは
怖いだろう?
ならば、
自分の手が
一番だ。
時間は
どれだけ
かけても良い。
調子も
君が
決めれば良い。
少しで良いから、
外側に向ける優しさで、
バラのつぼみを
撫でてみて。
きっと
次に咲く花は、
内側から
キラキラ光るよ。
そう、
まるで、
魔法をかけたみたいに。
+++
「さあ見て、
君の景色を!」
劇場のバルコニーで、
片鍵のコトリは
片方の羽を広げます。
その瞬間、
支配人びいきのイルカの涙が、
風に乗って、
舞い上がる
サクラに
変わりました。
涙は
魔法の素になり、
魔法は
笑顔の素になります。
キラキラと
空に溶けゆく
桃色を見て、
固く結んだ
泣き虫の口元が、
少しずつ
綻んでいきました。
「君のバラも、
きっと
同じ色さ。
君の涙が、
この花吹雪を
生んだんだから」
涙は、
心の氷塊が溶けて
外側に
流れだしたもの。
支配人びいきのイルカが
見つめる先に、
片鍵のコトリが
飛び立ちます。
まるで
泳ぐように
雲の隙間を
進みながら、
誰にも聞こえないように
呟きました。
「もうすぐ
世界は閉じるけれど、
君のセカイは
そのままだよ」
ふたつの片鍵が
出会う時、
この世界は
閉じるでしょう。
でも、
きっと
大丈夫。
バラを
枯らせてしまうことが無い限り、
彼のセカイは
続くのですから。
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