GiftedHero_07_矢面のクラゲ

追われ

逃げて、


決まって

捕まり、


引きずり

潰され


小休止。


また

立ち上がって

過ごしていると、


間もなく

見つかって


……の繰り返し。



僕は

これまで、


かくれんぼと

おにごっこを

組み合わせたような、


そんな毎日を

送っていた。


ぼろぼろになることが

日常と

なっていた頃、


ある役者と

出会った。


いや、


役者というには

あまりにも

拙すぎる演技だったから、


その肩書きは

彼にとって

辛いものだったと思う。


一夜にして

劇場のスターダムの中心に

放り込まれた

かわいそうな彼。


だけれど、


それでも

僕にとっては

脅威の存在だったから、


最初は

正直なところ、


あまり

心を近づける気に

なれなかった。


しかし

ある時、


ステージの彼と

観客席の群衆を

客観的に見て、


ある法則に

気付いた。


群衆は

夢を見る。


否、

真実を

信じない。


彼らの理想像を

貪欲に追い求めて、


その期待の金槌が


心の氷塊を

容赦なく

打ち砕く。


しかし、

崩れた破片は

涙に変わり、


それは

魔法の素になる。


氷の中から

顔を出した

無防備なバラの香りが、


涙が弾けた

キラキラの魔法と

連鎖して、


間もなく

笑顔が

広がっていくのだ。


その

目の前の景色が、


心を温かく

包み込み、


人は

氷塊を

修復していく……。


あぁ、

なんだ、


そういうことか。


僕は

この世界の

真理に

触れた気がした。


それなら

何も、


恐れることも、

逃げることも

ないじゃないか。


その日から

僕は、


前に立つ覚悟を

決めたんだ。


+++++


「僕らは


 全部

 受け止めて、


 本気で、


 空を飛ぶつもりだよ」


矢面のクラゲは、

支配人びいきのイルカに

語りかけます。



いつもの

柔和な表情で、


だけれど、


芯の通った声で

運ばれる

その言葉に、


支配人びいきのイルカは


頭を優しく

撫でられるような

心地になるのでした。


『君の気持ちがわかる』


とか、


『大丈夫』


という言葉より、


時に、

目指す場所をともにする

意思表明こそが、


孤独どうしを繋ぐ

バラのつるを

伸ばす

肥料に

なり得るのです。


抗うことを

手放した

矢面のクラゲは、


もう、

けなされても、

バカにされても

大丈夫。


全部

受け止めて、

咀嚼することが

できるでしょう。


そして

その存在は、


他人の氷塊に差し込む

一筋の光になります。


時は夜明け。


海の先、

天秤皿が

朝の光を反射して

キラキラ

輝いています。


静まり返った城下町も、

じきに照らされ

目を覚ますでしょう。


彼らは

枯れそうになった

バラの根元に


たっぷりと

水を吸わせて

ひと呼吸し、


様々な思いを

背負いながら、


今日も

舞台に

立つのでした。



GiftedHero / IROKACOLORIS

イロカクロリ -creator iroka's portfolio