GiftedHero_08_憂うスナメリ
私は私のプロデューサー。
ずっと私を動かすの。
少し、怖いくらいに。
私の中には
多分、
もうひとり
私がいる。
頭の右上で、
次の先の展開まで、
しっかり計算できちゃう
ロジカルなヒーロー。
そして私は、
右上の彼女が
言うように、
あたかも
何も知らないみたいに、
人生を演じて
ここまで来た。
だけど
私も
彼女も、
幸せ恐怖症。
自分が
救われる未来は、
どうしても
描けないの。
悲劇の
一番真ん中から、
常に私が
ぶれないように。
涙のスポットライトから、
一瞬たりとも
外れないように。
そんな風に、
今日まで
自分を
据えてきた。
最初はきっと、
私が
自分の立ち位置を
確保できるように
という、
彼女なりの
思いやりが溢れる
プロデュースだった
のだけれど……
いつのまにか
習慣になり、
癖になり、
今となっては
アイデンティティになった。
私は
試練で輝く
役者なの。
この
妙な誇りが
自信になり、
堂々と
世界の真実に
うちひしがれて、
沈んで、
弱気な姿を
見せる。
その次は、
応援が
後押しになり、
勇気を
取り戻して、
また
悲しみに
立ち向かう。
彼女が描く
このサイクルを、
私は
女優のプライド
を持って、
ずっと
ずっと
繰り返す。
不幸に
包まれ続けるように、
整然と、
着実に
セカイを展開していた
私と彼女。
涙の氷塊が
少しでも
溶け始めたら、
すぐに
悲劇を
用意して、
虚像の中に
閉じこもる。
その度
周りを巻き込んで、
彼女と私は
不謹慎な達成感に
浸っていた。
まあ、
彼女も私も、
結局は
私なのだけれど……。
私が
かき回したのは、
周りの人たち
だけではなくて、
きっと
私自身も、
なんだと思う。
私によって
心が
大きく揺さぶられた時、
バラの花びらが
千切り取られる感覚を
憶えた私。
悲しいかな、
慣れ親しんだ
この日常から、
抜け出す元気は
もう無いのかも。
私を動かす私に
気付いてしまった
今、
なんだか
力が
抜けちゃった。
もう、
だめかもなぁ。
この虚像の世界と一緒に、
私のセカイも
閉じれば良いや。
+++
「そうかなぁ。
立ち止まっても、
生きていけるぜ。」
憂うスナメリが
うつむく横で、
片鍵のコトリが
つまらなそうに
呟きます。
彼女は
少し
驚いたように、
彼の顔を
見ました。
たとえそれが
ルーチンワークだったとしても、
常に
動き続けなければ、
自分に価値など
無いのだと、
彼女は
本気で
思っていたから。
鉄橋の欄干には、
弱い風が
静かに
吹き抜けます。
この風でさえ、
少し前の彼女にとっては、
自身の悲劇を
演出する、
格好の材料と
なったのでしょう。
彼の羽音は、
確かに
温度を持った風に乗って、
鉄橋の先……
丘に向かって
吹き抜けます。
無機質な灯台の
向こうにある、
丘の崖。
その先から
空に向かって、
何かが
建設されています。
閉じゆく世界で
彼の持つ、
片方の鍵の意味
とは如何に。
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