GiftedHero_09_叩き上げのイタチ

現実の進む速さに、

私はいつも

置き去りだった。



そこに住む人々は、

変わらず

ひとつのはずなのに、


それは日々、

毎時間


……いや、

毎秒、


姿かたちを

変えるから。


そんな中、


突風のように

駆け抜ける人々の


思いや、

情報や、

真実……


つまり

世界に、


私のセカイを

重ねることは、

とても

難しいものだった。


もちろん

最初はどうにか、

添え合わせようと

試みた。


だけど、

結局


その挑戦は

精神を侵す結果を呼び、


ついに

崩れ始めて、


私は

セカイを

閉じざるを

得なくなってしまった。


この現象は

多分、


一種の

緊急措置

なのだと思う。


閉じたセカイの人々は、


心地よく

快く、

温かく


私を

包んでくれる。


世界から

追われた私を、

迎え入れてくれる

唯一の場所。


そこに住む彼らは、

遠い昔の思い出のまま。


決して

変わることなく、


知る通りの言葉を

繰り返してくれるのだ。


もう、

いいや。


浸っていよう。


私には

きっと、

合わなかったんだ。


叩き上げじゃ

どうにもならない

ことだって、

世界にはある。


勉強になったじゃない。


努力だけじゃ、

追いつけないものも

あるんだ。


閉じられた

セカイの中で、

三角座りを

していると、


心に

温かな涙が

溜まっていくような

気がした。


決壊した

氷塊が、


少しずつ

再構築されていく。


その滴は

外に

漏れ出ることなく、


着実に

精神を

充たしていく。


そして、


少し

時間が

かかったけれど、


私はどうにか

元の姿を

取り戻した。


溜めた涙を

茎から

吸わせて、


心のバラに


一度は失われた

鮮やかな赤を

載せることができた

今、


地面に

手のひらをついて、


立ち上がろうと

力を入れる。


でも、

彼らは、


それを

許してはくれなかった。


都合良く閉じたセカイを、

都合良く

こじ開けようとする

私。


そんな勝手なことが

認められるわけもなく、


閉じたセカイの住人達は

全ての力で

私を制した。


そして

彼らは、


私の心の奥底の

氷の塊を、


再び

壊し始める。


それもそのはず。


涙が積もって

元通りになるまで

決して動かなかった私を、


彼らは

一番近くで

見ていたのだ。


氷塊が崩れれば

私が

外に向かおうとしないことは、


彼らが一番、

分かっているから。


もう彼らは、

私の思い出の中にいた、

知る通りの彼らじゃなかった。


変わりゆく世界とは

違う、


変わらない人々として

配置したはずなのに、


結局は

同じ結末が

導かれる。


そして、

気付いた。


世界と

セカイの彼らを

歪めたのは、


私自身

だってことに。


+++


暗くて冷たい

正方形の

自宅の中で、


叩き上げのイタチは

なおも

三角座りを

続けます。


結局のところ、


挫折の涙に

偽りの温度を与えて、


閉じたセカイで

生き続けることを

一番望んだのは、


紛れも無く

彼女自身

だったのです。



悲しみの論点を

すりかえて、


全てを

世界のせいにしてきた

彼女が、


自分の真実に

気付いた今、


それでも

彼女は

座っています。


今更、

ここから出ることは

できないのでしょう。


世界に向ける表情も、

紡ぐ言葉も、


もう

彼女には

思いつきません。


本当は

決して温度を持たない、


冷たくて

重い

涙が、


ずいぶん持ちこたえた

瞳の奥から、

床に

染みを作ります。


そんな時、

扉の向こうから、


小さなノックの音。


「涙の落ちる音が、

 確かに

 聞こえた気がした

 のだけれど、


 こちらのおうちで

 合っているかな?」


王子気取りのワラビーは、

柔らかな語調で

伝えます。


叩き上げのイタチは、

自分が排した世界の住人が、


一枚の扉の反対側に

再び

現れた現実に、


驚きを

隠せませんでした。


そして、

彼は語ります。


「独り言を

 少しだけ、

 空に溶かしてみようかな。


 人は憎悪する。


 どんなに

 綺麗に

 生きようとしても、


 憎しみは

 避けて通れない。」


GiftedHero / IROKACOLORIS

イロカクロリ -creator iroka's portfolio